アスベストとは何か、その危険性、アスベスト処理のピーク、アスベストはどこに使われているかなどについて記載します。
アスベストとは、天然の鉱物繊維です。その直径は0.02から0.06ミクロン(1ミクロンは1mmの1000分の1)であり、「髪の毛の5000分の1」という非常に細かいものです。
アスベストというのはギリシャ語で「消すことができない」「永遠不滅の」という意味です。
アスベストは日本では石綿(いしわた又はせきめん)と呼ばれ、「絶縁性」「不燃・耐熱性」「耐摩耗性」など優れた特性を持っており、しかも安価であったため、当初は「奇跡の鉱物」「天然の贈り物」と呼ばれました。
その結果幅広く使われ、その利用範囲は3000品目にも及んでいますが、量的にはそのほとんどが吹付け材料や石綿スレートなど建材として使われてきました。
アスベストは、蛇紋石系と角閃石系に大別され、クリソタイル(白石綿)、アモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)、アンソフィライト、トレモライト及びアクチノライトの6種類があります。
石綿の原石 |
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クリソタイル(白石綿) |
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アモサイト(茶石綿) |
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クロシドライト(青石綿) |
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分 類 |
アスベスト名 |
特 長 |
備 考 |
蛇紋石系 |
クリソタイル(白石綿) |
かんらん石等の起塩基性岩が変性作用をうけ蛇紋岩化したもの。白綿のように柔らかい。 |
2004年10月に使用禁止(ただし、シール材およびジョイントシート等への使用は認められている)。 |
角閃石 |
アモサイト(茶石綿) |
カミントン閃石、グニュネル閃石の系列。 |
1995年4月より使用も製造も禁止。 |
クロシドライト(青石綿) |
石綿状のリーベック閃石のことで、針状に尖った繊維で、最も毒性が強いとされる。 |
1995年4月より使用も製造も禁止。 |
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アンソフィライト(直閃石綿) |
直閃石(ちょくせんせき、アンソフィライト)と呼ばれる。 |
日本の産業界では使用されていないとされていたが、2008年検出された。 |
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トレモライト(透角閃石綿) |
透閃石(とうせんせき、トレモライト)と呼ばれ、Ca角閃石の仲間。 |
同上。 |
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アクチノライト(陽起石綿) |
角閃石(かくせんせき、アクチノライト)と呼ばれる。 |
同上。 |
アスベストは当初、「奇跡の鉱物」と呼ばれていましたが、がんや中皮腫を発症する発がん性が問題となりました。
アスベスト自体に化学的な毒性があるわけではないのですが、繊維が粉じんとなり、吸引されて肺の組織に刺さると、溶解せずに残り、中皮腫やじん肺などの原因になるのです。
そして20~40年の潜伏期間を経て発症するのです。これが「静かなる時限爆弾」と呼ばれるゆえんです。
アスベストを吸うことにより発生する疾病としては主に次のものがあります。
1.石綿(アスベスト)肺
肺が線維化してしまう肺線維症(じん肺)という病気の一つです。肺の線維化を起こすものとしてはアスベストのほか、粉じん、薬品等多くの原因があげられますが、石綿のばく露によっておきた肺線維症を特に石綿肺と呼んで区別しています。
職業上アスベスト粉じんを10年以上吸入した労働者に起こるといわれており、潜伏期間は15から20年といわれています。アスベストに、ばく露しなくなったあとでも進行することがあります。
2.肺がん
石綿が肺がんを起こすメカニズムはまだ十分に解明されていません。しかし、肺細胞に取り込まれた石綿繊維の主に物理的刺激により肺がんが発生するとされています。
また、喫煙と深い関係にあることも知られています。アスベストばく露から肺がん発症までに15から40年の潜伏期間があり、ばく露量が多いほど肺がんの発生が多いことが知られています。
治療法には外科治療、抗がん剤治療、放射線治療などがあります。
3.悪性中皮腫
肺を取り囲む胸膜、肝臓や胃などの臓器を囲む腹膜、心臓及び大血管の起始部を覆う心膜等にできる悪性の腫瘍です。
若い時期にアスベストを吸い込んだ方のほうが悪性中皮腫になりやすいことが知られています。潜伏期間は20から50年といわれています。
治療法には外科治療、抗がん剤治療、放射線治療などがあります。
出典:国土交通省「建築物のアスベスト対策」
※アスベスト(石綿)による健康被害の実態
アスベストによる健康被害と言われている中皮腫の患者は年々増え続けています。厚生労働省の人口動態統計によると、1960年代の石綿輸入量の増加した時期に、潜伏期間(平均約40年)を加えた時期にあたる2000年以降において急増してきています。
2005年に中皮腫で死亡された方は911名で、1995年の倍近くになっています。
一方、石綿にさらされる業務による肺がん、中皮腫として労災補償を受けている方々も1990年代から増えており、2004年度には186名(肺がん58名、中皮腫128名)、2005年度は715名(肺がん213名、中皮腫502名)、2006年度は783名(肺がん783名、中皮腫1,000名)、2007年度は1,496名(肺がん501名、中皮腫995名)でした。
石綿輸入量と中皮腫発生動向(出典:環境再生保全機構)
石綿による肺がん・中皮腫の年度別労災認定件数(出典:環境再生保全機構)
※40年間で10万人以上の悪性胸膜中皮腫の男性死亡者数を予測
2002年、早稲田大学理工学部(社会工学)村山武彦教授らによって、「わが国における悪性胸膜中皮腫死亡数の将来予測」という研究発表が行われ、わが国において初めて、「アスベスト被害の将来予測」とも言える研究成果が公表されました。
この研究報告によると、疫学的な統計手法で分析した結果、2000年から2039年の40年間に、悪性胸膜中皮腫の男性死亡者数を約10万人以上、1990年から1999年までの10年間の死亡者数の約49倍と予測しています。
出典:社団法人神奈川県不動産鑑定士協会「よくわかるアスベスト」
図1の上側の図は、「代表的なアスベスト建材の使用期間」を示しています。例えば、吹付けアスベストは昭和50年(1975年)頃まで使われていたことがわかります。
これと対応して、下側のグラフは「アスベスト輸入量と建築着工床面積の推移」を表しています。
アスベスト輸入量の第1次ピークは1961年~1980年頃と考えられます。また、第2次ピークは1981年~1997年頃と考えられます。築40年で建て替えされると仮定すると、解体のピークは第1次が2001年~2020年、第2次ピークが2021年~2037年頃と想定できます。
この傾向を民間建築物に限って推計したグラフが次の図2になります。
出典:社会資本整備審議会建築分科会 アスベスト対策部会(第5回)
1000平米未満の中小の民間建築物などに対象を拡大すると、アスベストがあるのではないかと推測される民間建築物は約280万棟と推計されています。
解体のピークは平成40年(2028年)頃になり、そのピーク時の解体棟数は、平成21年時点の約2倍と推計されています。
さらに、木造や戸建て住宅まで範囲を広げると約3300万棟にものぼると推計されています。しかも、この調査は危険度の高いアスベストだけを対象としたものでしかないのです。
アスベスト処理はまさにこれからがピークと言えるのです。
アスベストは、労働安全衛生法(石綿障害予防規則)・大気汚染防止法により、危険度の高い順に、レベル1~3に分類されています。
レベル1:吹付け材レベル1(著しく発じん量の多い製品)
レベル2:保温材等レベル2(比重が小さく発じんしやすい製品)
レベル3:その他石綿含有建材(成形板等)(発じん製の比較的低い製品)
次の表に、レベル1~3毎 の建材の種類と製造時期をまとめてあります。
<アスベスト含有建材と製造時期>
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出典:国土交通省「目で見るアスベスト建材(第2版)」 |
次の表はアスベスト使用建材が、建物のどの部位に使われているかの例です。
RC・S造の鉄骨建物には、レベル1及び2の建材が多く使われ、戸建では、レベル3の建材が使われていることが分かります。
<アスベスト使用建材の使用部位例>
吹付け石綿 | <RC・S造> <一戸建て> |
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石綿吹付けロックウール (乾式・半湿式) |
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石綿吹付けロックウール (湿式) |
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石綿含有パーライト吹付け | ||
石綿含有バーミキュライト吹付け(ひる石) | ||
石綿含有けい酸カルシウム板第2種 | ||
屋根用折版石綿断熱材 | ||
煙突石綿断熱材 | ||
石綿・けいそう土・パーライト・石綿けい酸カルシウム等各種保温材 | ||
フレキシブルボード・大平板等 | ||
けい酸カルシウム板第1種 | ||
岩綿吸音板 | ||
石膏ボード | ||
けい酸カルシウム板第1種 | ||
ビニル板タイル | ||
フロアシート(長尺塩ビシート等) | ||
押出成形セメント板 | ||
窯業系サイディング | ||
押出成形セメント板 | ||
フレキシブルボード・石綿セメント板 | ||
スレート波板 | ||
けい酸カルシウム板第1種 | ||
住宅化粧用スレート | ||
石綿セメント円筒 | ||
耐火二層管 | ||
ガスケット・パッキン |
出典:国土交通省「目で見るアスベスト建材(第2版)」
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