近隣でのアスベスト解体工事の対応策・実体験版!
近隣で解体工事が始まったら、騒音や振動、そしてアスベストが使われていないかどうか不安に感じることでしょう。
しかし、一般の方は具体的にどう対応していいか分からないと思います。
実は、昨年2018年10月から、当サイト運営責任者の私、国松の荒川区自宅マンション隣で、RC(鉄筋コンクリート)造7階建てマンションの解体工事が始まったのです。
まさか自宅の隣で解体工事が始まるとは思ってもみなかったのですが、私がアスベストの専門家として、具体的にどう対応したかをお伝えいたします。
いわば「近隣でのアスベスト解体工事の対応策・実体験版!」です。
この手順で対応すれば、皆様の不安もなくなりご安心いただけると思います。
以下、時系列で対応策を記載いたします。かなり長くなりますが、非常に重要なことなのでご確認いただければと思います。
なお、近隣で解体工事が始まりそうでお急ぎの方は、最後の「まとめ」の項目を参照し、早速行動に移してください。
具体的な対応策
1.「建物解体工事についてのお知らせ」が投函される
2018年9月下旬、私の自宅マンションポストに、10月15日より解体工事を開始する旨の書面が投函されました。該当建物の場所をよく見ると、何と自宅隣の7階建てマンションでした。
そしてその書面には、アスベストの取り扱いについて、以下の記載がありました。
「事前調査は『石綿障害予防規則』及び『大気汚染防止法』に基づき、解体建物に存在するアスベストを調査した結果、吹付けアスベスト含有建材の使用はございませんでした。」
要するに「アスベストなし」と記載されているわけです。
その瞬間私は、「怪しい?」と感じたのです。
通常、RC造の建物には天井等のいわゆる「吹付けアスベスト」が使われているケースは少ないのですが、2017年5月30日に環境省より通達が出て、「外壁アスベスト」の規制が厳しくなりました。
それ以来、RC造の建物には外壁や内壁にアスベストが使われているケースが頻発しているからです。
2.区役所に「事前周知報告書」の記載内容を確認する
各役所では、解体工事の苦情や紛争を未然に防ぐために「建築物の解体工事の事前周知に関する指導要綱」を制定しています。
解体床面積の合計が80平方メートル以上の解体工事が対象で、要綱では、解体工事の事前周知に関する標識の設置や解体工事にあたっての具体的な配慮事項、近隣の方々への事前説明等について規定しています。
解体業者は、事前周知の内容を該当役所に報告しなければなりません。これが「事前周知報告書」です。
10月10日、区役所の建築指導課に電話し、「事前周知報告書」の内容を確認しました。
この書面にアスベストの調査内容が記載されているのです。
調査方法として、「設計図」、「目視」、「分析」を記載するのですが、何と「目視」による調査であることがわかりました(上記画像の赤字部分参照)。
この時点で私は、「違法解体業者」だと確信しました。なぜなら、外壁にアスベストが使われているかどうかは、アスベスト専門業者でも目視(目で見ただけ)ではわからないからです。
荒川区の場合、事前周知報告書は建築指導課で受理することになっていますが、一般的には環境課で受理する役所の方が多いようです。
アスベスト対策については、環境課が主管個所なので、環境課で受理した方が良いと思います。
荒川区では、事前周知報告書の情報が建築指導課から環境課に伝わるシステムになっていないため、建築指導課が、このような目視による調査済みとの書面を受理してしまったのです。
3.区役所に解体工事の延期と事前調査の実施を依頼する
同日、環境課の担当者に、上記の理由からアスベストの事前調査が必要であることを説明しました。
10月15日からの解体工事は延期し、環境課の担当者立ち会いの下、アスベストの事前調査を早急に実施すべきであると伝えました。
この時点では、私は解体業者とは直接話さず、すべて環境課の担当者を通して交渉をしました。なぜなら、このような解体業者に自分の個人情報を与えることは避けるべきですし、当事者同士ではなく第3者経由の方が冷静に交渉が進むからです。
そのため役所とは3日間、何度もやり取りをしなければなりませんでした。とにかくこちらの主張を通さねばならないので、粘り強く決してあきらめないことが肝要です。
10月12日、ようやく解体工事は延期され、アスベストの事前調査実施が決定。ともかく、アスベストの事前調査をせずに解体する「違法解体」は阻止できたのでした。
4.10月17日アスベスト事前調査実施
環境課の担当者立ち会いの下、事前調査が実施されました。調査の前に、建物の外壁に加え、建物内部の階段・共用廊下・内装材からもサンプルを採取し、分析するよう依頼しました。
5.分析の結果アスベスト含有が判明
1週間ほどして、分析結果が出ました。
外壁にはアスベスト含有がなかったのですが、建物内部の階段の壁と共用廊下の1階から7階までの壁に吹付けアスベスト(仕上塗材)が含有されていたのです。
撤去面積は665㎡もありました。
分析しないまま解体工事を開始していたら、これらアスベストが飛散し、知らないうちにアスベストを吸ってしまうことになっていたのです。
そう思うと恐ろしくて仕方ありません。
と同時に、今回事前調査を要請して本当に良かったと痛感しました。
6.解体工事説明会の開催を要請
アスベスト含有が認められたため、この解体工事は抜本的に見直しが必要となりました。アスベスト除去の計画を立てた上で、近隣住民のために解体工事説明会を開催すべきと、区役所に要請しました。
7.解体工事説明会が開催される
その結果、12月8日に説明会が開催されました。解体業者及びアスベスト業者より、事前調査を行わなかったことの謝罪、アスベスト除去工事の工法・日程などの説明がありました。
私は以下の1~4について質問しました。
1.アスベスト解体工事はどのくらい実施しているのか?
→1年で1、2回との回答。
→非常に少ない。経験が足りない。
2.なぜ事前周知報告書に「目視」のみと記載したのか。分析調査をせずに、いつもこのような形を取っているのか?
→工事を進める中で、再度調査をしようと考えていたとの回答。
→事前周知報告書にはアスベストが含有されているかどうかが記載されており、この提出により工事の計画が確定する。「事前調査義務」を怠ったのは明白で、この回答は全くの詭弁。その後、この違法解体業者は、労働基準監督署より厳しい指導を受けた模様。
3.大気中のアスベスト濃度測定は、作業前・作業中・作業後実施するのか?
→その通り実施するとの回答。
4.剥離剤の試験施工時に環境課にも立ち会ってほしい
→了解との回答。詳細は次の 「8.区役所、試験施工立ち合い」をご参照ください。
5.参加者の方から私、国松にご質問をいただきました
→「洗濯物を干しても良いですか?」
→「万が一、アスベストが飛散する可能性もあるので、アスベスト除去工事中は外に干さないほうが良いと思います。
アスベスト除去工事が終われば、今回のケースでは、この記事のトップの写真のように、かなり頑丈に防音パネルで囲われているので、洗濯物を干しても良いと思います。」
この問題は、該当工事の状況や皆様の感覚にもよるので一概には決められませんが、参考にしてください。
8.区役所、試験施工立ち合い
今回のケースでは、建物内部階段と共用廊下の壁の表面にアスベスト含有があったため、その部分をはがすために、剥離剤(はくりざい)を使用します。
剥離剤の使用には、それが適切に機能するかどうかを確認するため、事前に試験(テスト)施工をします。この試験施工により、完全にはがれるかどうかをチェックするのです。
アスベストが、きちんと完全にはがれなければ、残ったアスベストが飛散し大変な問題になります。
しかし、いいかげんな業者の場合、完全にはがれない段階で、アスベスト除去工事を実施してしまう可能性があります。
そこで、区役所の担当者にこの試験施工の立ち会いを依頼したのです。
その結果、建物内部の階段の壁については、簡単にアスベストがはがせました。
しかし、共用廊下の壁については、吹付けアスベストがかなり厚く、剥離剤を数回に分け
て塗ることで、完全にはがすことに成功しました。
9.アスベスト除去工事開始
12月15日にアスベスト除去工事が開始されました。
試験施工を的確に実施していましたので、工事は順調に進みました。
10.大気中のアスベスト濃度測定の実施
大気中の濃度測定は、アスベスト工事の作業前・作業中・作業後に実施し、アスベストの飛散は検出されませんでした。
11.アスベスト除去工事完了
12月下旬、アスベスト除去工事は無事完了しました。
今回の件での問題点及び改善点
1.問題点
①荒川区の場合、事前周知報告書の情報が建築指導課から環境課に伝わるシステムになっていないことが問題。
②そのため、アスベスト事前調査が目視のみであるのに、建築指導課が「事前周知報告書」を受領してしまったのです。
③このようなことがまかり通れば、違法解体業者がアスベスト分析なしですり抜け、違法解体が行われる可能性があります。
大気汚染防止法などで「事前調査義務」を規定しても、ただの「ザル法」となってしまうのです。
2.改善点
①「事前周知報告書」の調査記載が目視の場合は、役所はそのまま受理せず、該当業者にアスベスト分析調査の実施を指導すべきです。
荒川区では今回の反省を踏まえ、そのように是正するとのことです。
②そもそも、大気汚染防止法でアスベストの事前調査義務を規定しているのですから、目視や設計図書だけによる調査は認めず、建物の解体工事については、アスベスト分析調査を必須にすべきであると考えます。
下記の関連コンテンツ「アスベスト事前調査の重要性」で記載しているように、設計図書にアスベストの記載があっても分析してみると使われていないこともあるのです。
逆に、設計図書にアスベストの記載がなくても、分析してみると使われていることもあり、結局、分析してみないとアスベストの有無は分からないのです。
この点については、東京都環境局 環境改善部 大気保全課の担当者に伝えました。その担当の方は、現在、国主導でアスベスト対策の改善策を検討しているので、それら会議の中で指摘していくと言われていました。
まとめ
1.役所に連絡し、解体工事の「事前周知報告書」(もしくは「石綿事前調査結果報告書」など、解体工事のアスベスト調査方法が分かる書面)の提出先を確認する。
2.役所の「事前周知報告書」の提出先に、該当する解体工事のアスベスト調査方法の記載個所の内容を確認する。
3.分析調査実施済みならば問題なし。
「目視」・「設計図書」の場合は問題あり。役所より該当業者に分析調査すべきと指導してもらう。
4.分析調査の結果、アスベスト含有なしならば問題なし。
アスベスト含有なら、役所が該当業者にアスベスト除去対応策の策定を指示する。
5.役所に説明会の開催を要請する。
6.説明会で疑問点を質問する。上記7の「解体工事説明会が開催される」を参考にする。
7.役所による抜き打ち調査を依頼するなど、適正工事完了まで監視させる。